シスチンの摂取量と睡眠時間 ~認知機能への影響~
2024年11月1日
今月のグローバルスキャンは2023年10月に発表された論文を要約してお届けいたします。
はじめに
世界的な高齢者人口の急増に伴い、認知症患者の数が増加しており、2050年には60歳以上の高齢者の5〜8%が認知症患者となる可能性が推定されています。
そのため、脳の働きに影響を与える要因を重点的に考え、認知能力の低下を遅らせることが重要です。
生活習慣要因として睡眠や食事が挙げられますが、睡眠時間と認知機能障害との間には関連性があることが報告されています。
また、睡眠不足は脳内のアミロイドβというタンパク質の蓄積によって、認知機能障害を引き起こす可能性が示唆されていますが、長時間の睡眠と認知機能の関連性はまだ解明されていません。
特定のアミノ酸は炎症を抑制し、酸化ストレスを軽減することが知られており、いくつかの研究ではアミノ酸と睡眠、認知機能の関係が示唆されています。
そこで今回の研究では、睡眠時間と認知機能の関連性を明確にし、アミノ酸の一種であるシスチンの摂取量がどのような影響を与えるかを調査しました。
どのような研究?
今回の研究は愛知県の国立長寿医療研究センターのサポートの元で行われ、対象者は60〜83歳の愛知県民623名(男性296名、女性327名)としました。
1日の睡眠時間を1年間記録して平均睡眠時間を算出し、下記のように3つのグループに分けました。(図1参照)
また、それぞれのグループにおける認知機能を調査し、①睡眠時間と認知機能障害の関連性を分析しました。
さらに、グループC(長時間睡眠)における食事の摂取量を計測し、シスチンの摂取量によって2つのグループに分け、②シスチンの摂取量と認知機能障害の関連性を調査しました。
試験の結果
①睡眠時間と認知機能障害の関連性
睡眠時間と認知機能障害の発生率を比較した結果、グループA(短時間睡眠)よりもグループC(長時間睡眠)の方が認知機能障害のリスクが高いことがわかりました。(表1参照)
②シスチンの摂取量と認知機能障害の関連性
グループC(長時間睡眠)において、シスチンの摂取量が多いグループと少ないグループに分けて統計を計算しました。
その結果、シスチンの摂取が低い場合、認知機能障害のリスクが2.15倍も高くなることが示されました。
さいごに
今回の研究では、60歳以上の人々において、長時間の睡眠が認知機能障害の発生率と関連していることがわかりました。
また、赤みの肉やナッツ類に多く含まれるシスチンの適切な摂取が、長時間睡眠と認知機能障害のリスク軽減に寄与する可能性が示されました。
この研究は、加齢とともに睡眠時間が長くなる傾向がある高齢者に対し、栄養を通じて脳の機能や生活の質を維持するための新たな視点をもたらすかもしれませんね。
参考文献:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10568860/
訳:Nanami Hamashita